東京高等裁判所 平成6年(行ケ)248号 判決
東京都港区南青山2丁目1番1号
原告
本田技研工業株式会社
同代表者代表取締役
川本信彦
同訴訟代理人弁理士
下田容一郎
同
小山有
同弁護士
稲元富保
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
同指定代理人
寺尾俊
同
江成克己
同
幸長保次郎
同
土屋良弘
同
関口博
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成1年審判第2423号事件について平成6年8月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和57年2月23日、名称を「車両用走行経路誘導装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和57年特許願第28434号)をしたが、昭和63年12月9日拒絶査定を受けたので、平成元年2月16日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成1年審判第2423号事件として審理し、平成4年5月12日特許出願公告(平成4年特許出願公告第27486号)をしたが、平成4年8月7日、特許異議の申立てがあり、特許庁は、平成6年8月30日、特許異議の申立ては理由がある旨の決定とともに「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月5日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
走行距離、進行方向に係る検出器からの検出信号処理装置の演算機能によって車両の位置に係る情報を求め、且つ地図に係る画像情報を記録した記録媒体から再生装置を介して所定の地図情報を読み出し、上記各情報を信号処理装置内に保ちつつ該信号処理装置で表示装置の画面に併せて表示し、これによって運転者が自車の現在位置を知り得るようにした装置において、操作装置を設け、該操作装置と上記信号処理装置に上記表示装置の画面に表示された地図に予定する走行経路を設定し得る機能および走行経路途中の所定位置にかかる案内情報を記憶し得る機能を設けると共に、上記信号処理装置の出力側に前記案内情報を報知する通告装置を備え、予め設定された走行経路に従って走行中に、車両の現在位置と前記所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として前記通告装置により案内情報を報知して走行経路を運転者に教示するようにしたことを特徴とする車両用走行経路誘導装置。
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2)〈1〉 これに対して、甲第2号証(特開昭56-121200号公報。本訴における書証番号で表示する(以下、同じ。)。以下「引用例1」という。)には、「自動車走行案内装置」が記載されており、このものの「制御装置」は、「ディジタル計算機で構成され、検出器よりの信号を受けて、計算した、自動車走行位置と、カセットテープ装置(3)よりの道路網データー、および、外部設定器より、設定された目的地点、目的地に達する走行ルートを、合わせて画面表示装置(1)に表示し、画面の移動などを自動的に制御する。またカセットテープから走行位置に見合った、道路網データーを取り出す様、カセットテープ装置(3)を制御する。」(2頁右上欄2~10行)ものであり、その「検出器」は、「距離発信機(6)、ピッチング・ローリング計(7)、コンパス(8)は車体の一部分に固定設置され、車の走行距離、前後左右の傾き、車体の方位を電気信号として取り出す」(2頁左下欄9~12行)ものであり、また、その「画面表示装置」は、「(1)走行位置に見合った道路網データーを収録しているカセットテープ番号を画面表示し、カセットテープのデーターインプットを要求する。(2)車が走行すると走行位置の変化分だけ、道路網画面中の車(シンボル表示)が移動する、或いは車のみが静止し、道路網画面が移動する。これによって1つのカセットテープのカバーする情報範囲から外れると、前述と同様、走行位置に見合った、データーインプットを要求する。〔第6図(別紙図面参照)画面表示例参照〕また画面の1部分に右折、左折、直進の指示、方位インジケータとして、走行の目標方位(カセットテープより本装置にデーターインプットされる)と、現在走行方位が写し出されるので、十字路の交差点では、右折、左折、直進の指示に従い、それ以上の複雑な交差点では、方位インジケーターの目標方位に従がって運転する。なお、図面には特に記載していないが、画面表示装置にはスピーカーが内蔵され、音、または音声によっても、同様に、右折、左折、直進の指示や現在位置がドライバーに知らされる」(3頁右上欄10行~左下欄11行)ものであり、その「外部設定器」は、「画面を見ながら画面手動選択器(4)およびライトペン(5)を手動操作する事により、画面を手動で移動させると共に、この設定器によって、目的地点、走行ルートをプリセットする。」(2頁左下欄4~7行)ものであり、その「ライトペン」は、「(1)目的地を画面表示装置(1)上で、設定する事が出来る。(2)走行ルートを画面表示装置(1)上で、設定する事が出来る。」(4頁左上欄8~11行)ものである。
〈2〉 また、同じく甲第3号証(特開昭57-3199号公報。以下「引用例2」という。)には、「車両の走行距離を検出する距離検出手段と、車両進行方向の方位を検出する方位検出手段と、複数の通過点の座標を順次入力する入力手段と、この入力手段により入力された位置関係を各々記憶する記憶手段と、通過点の位置あるいは方向を表示する表示手段と、車両走行中上記両検出手段の出力をもとに任意の場所からあらかじめ設定してある任意の通過点の位置あるいは方向を上記表示手段でもって表示させる手段を設けたことを特徴としたナビゲーション装置」が記載されており、このものについて、「走っている車が現在目的としている通過点の近傍に来るとデータセレクタ11の出力X、Yで(X2+Y2)1/2の演算を行なった演算器19の出力と、現在の場所から目的としている通過点までの距離を示している演算器18の出力とを入力とする論理回路23により、通過点の近傍たとえば第2図のa点に来たことが検知され、警報発生器26により警報が出る」(2頁右下欄18行~3頁左上欄5行)ことが記載されている。
〈3〉 また、甲第4号証(特開昭50-98298号公報。以下「引用例3」という。)には、「区切られた区間の距離情報を記憶する記憶装置と、上記区間の車の走行距離を計測する手段と、この手段による計測走行距離を上記区間距離から減算し上記区間の走行残余距離を検出する手段と、この手段による残余距離情報が特定される値になった時に検知警報信号を発生する手段とを具備し、上記特定される値は、上記区間距離情報の値に対応して設定し得るようにしたことを特徴とする車の走行案内装置。」が記載されており、このものについて、「主記憶装置11には分割された区間毎の距離情報、さらには交叉点等の折曲方向指示情報等の案内情報が、番地に区切られて順次道程順に記憶される」(2頁左上欄18行~右上欄1行)こと、「手動入力の場合は、分割された各区間の距離および折曲方向の指示をキーボードで行なうものであり、自動入力の場合は、実走情報を計数記憶する記憶装置13からの情報を入力指令によりゲートの開かれるアンド回路14を介して主記憶装置11に書き込むようにする。そして、主記憶装置11からの読み出し情報もアンド回路15を介して記憶装置13に結合しこの記憶装置13の記憶情報は表示部16で表示するようにする」(2頁右上欄5~14行)こと、「この読み出し走行の場合には記憶装置13に対して実走情報が減算要素として結合され、記憶装置13には常に区間の区切り部である目標地点までの残余距離が計数記憶され、表示部16で表示されるものである。したがって、表示部16は常に目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようになるものである。」(2頁右下欄15行~3頁左上欄2行)こと、及び、「そして、記憶装置13に設定された距離情報による目標地点まで近接し、残余距離が2kmとなると、検出回路33から先にゲートの開かれたアンド回路34aに検出信号が与えられ、出力装置32で例えば表示の点滅等による警報を発するようになる」(4頁右上欄13~16行)ことが記載されている。
(3) そこで、本願発明と引用例1に記載のものとを対比検討する。
〈1〉 本願発明の車両用走行経路誘導装置において、「各情報を信号処理装置内に保ちつつ該信号処理装置で表示装置の画面に併せて表示」されるものには、「信号処理装置2の内部には走行軌跡記憶装置が設けられ、この装置は信号処理装置2の演算によって求められた刻々と変化する2次元座標上の車両位置のデータを順次格納し、車両の現在位置に到るまでの有限の連続情報として保持するものである」(本願明細書7頁2~7行)、「走行軌跡記憶装置に記憶された内容は読み出されて表示装置6に送出される」(同8頁13~15行)、「車両の走行を開始する前に操作装置5を操作し、車両の現在位置付近の地図の画像情報をディジタル情報記憶媒体8aから読み出し、その画像情報を信号処理装置8の内部の記憶部に記憶保持しつつ表示装置6に表示させ、表示された当該地図に対応させ予め位置合せして車両の現在位置等を表わすマークを表示装置6に表示された地図画像の上に重ねて表示せしめる」(同7頁14行~8頁1行)、「表示装置6の画面6aでは、例えば第2図に示されるように道路地図に係る画像が表示され、その画像上に更に車両の現在位置を表わす現在位置表示マーク9、車両の進行方向を表わす方向表示マーク10、現在の位置までの走行軌跡を表わす走行軌跡マーク11等が表示され、これらのマークが車両の実際の走行に追従して地図上を移動し、これを視認する運転者は地図上にて車両の現在走行中の位置等を知得することになる」(同8頁19行~9頁8行)の記載からみて、道路地図に係る画像と、その画像上に重ねて表示される現在位置表示マーク、方向表示マーク、走行軌跡マーク等であると解される。
また、本願発明の車両用走行経路誘導装置の「信号処理装置の出力側に案内情報を報知する通告装置」には、「又予め設定された経路を運転者に指示するに際して音声メッセージの代わりに、或いは音声メッセージと共に視覚に訴えるメッセージを画面に表示させることも可能である」(同13頁4~7行)の記載からみて、音声メッセージの外に視覚に訴えるメッセージを画面に表示させるものも含まれると解される。
一方、引用例1に記載された「自動車走行案内装置」の制御装置に関する「ディジタル計算機で構成され、検出器よりの信号を受けて、計算した、自動車走行位置と、カセットテープ装置(3)よりの道路網データー、および、外部設定器より、設定された目的地点、目的地に達する走行ルートを、合わせて画面表示装置(1)に表示し、画面の移動などを自動的に制御する。またカセットテープから走行位置に見合った、道路網データーを取り出す様、カセットテープ装置(3)を制御する。」の記載、及び、画面表示装置に関する「車が走行すると走行位置の変化分だけ、道路網画面中の車(シンボル表示)が移動する、或いは、車のみが静止し、道路網画面が移動する」、「また画面の1部分に右折、左折、直進の指示、方位インジケータとして、走行の目標方位(カセットテープより本装置にデーターインプットされる)と、現在走行方位が写し出される」、及び、「画面表示装置にはスピーカーが内蔵され、音、または音声によっても、同様に、右折、左折、直進の指示や現在位置がドライバーに知らされる」の記載からみて、引用例1に記載された「自動車走行案内装置」の制御装置は、現在位置に係る情報とカセットテープから読みだした道路網データーを保ちつつ、その画面表示装置に、道路網地図に係る画像と、その画像上に重ね合わせて、走行位置表示マーク、及び、外部設定器により設定された予定走行経路と目的地点を表示させると共に、走行経路途中の所定位置にかかる右折、左折、直進の指示や現在位置の案内情報を画面表示装置の一部と音声で表示させていると解される。
〈2〉 そうすると、引用例1に記載された「自動車走行案内装置」の「距離発信器とコンパス」、「制御装置」、「道路網データ」、「カセットテープ」、「カセットテープ装置」、「自動車走行位置」、「外部設定器」、「画面表示装置」、「走行ルート」、「右折、左折、直進の指示」、及び、「画面の一部とスピーカー」は、それらに関する記載からみて、それぞれ、本願発明の「走行距離、進行方向に係る検出器」、「検出信号処理装置」、「地図に係る画像情報」、「記憶媒体」、「再生装置」、「自動車の現在位置」、「操作装置」、「表示装置」、「走行経路」、「走行経路途中の所定位置にかかる案内情報」、及び、「案内情報を報知する通告装置」に相当するものと認められるから、両者は、走行距離、進行方向に係る検出器からの検出信号処理装置の演算機能によって車両の位置に係る情報を求め、且つ地図に係る画像情報を記録した記録媒体から再生装置を介して所定の地図情報を読み出し、上記各情報を信号処理装置内に保ちつつ該信号処理装置で表示装置の画面に併せて表示し、これによって運転者が自車の現在位置を知り得るようにし、操作装置を設け、該操作装置と上記信号処理装置に上記表示装置の画面に表示された地図に予定する走行経路を設定し得る機能および走行経路途中の所定位置にかかる案内情報を記憶し得る機能を設けると共に、上記信号処理装置の出力側に前記案内情報を報知する通告装置を備え、予め設定された走行経路に従って走行中に、前記通告装置により案内情報を報知して走行経路を運転者に教示する車両用走行経路誘導装置である点において一致し、引用例1に記載のものが、予め設定された走行経路に従って走行中に、通告装置により案内情報を報知して走行経路を運転者に教示するようにしているのに対して、本願発明は、予め設定された走行経路に従って走行中に、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知して走行経路を運転者に教示するようにしている点で相違している。
(4) 次に、上記相違点について検討する。
〈1〉(a) 引用例2に記載されたナビゲーション装置は、上述の通り、「複数の通過点の座標を順次入力する入力手段と、この入力手段により入力された位置関係を各々記憶する記憶手段」を有しており、また、「走っている車が現在目的としている通過点の近傍にくると、データセレクタ11の出力X、Yで(X2+Y2)1/2の演算を行った演算器19の出力と、現在の場所から目的としている通過点までの距離を示している演算器18の出力とを入力とする論理回路23により、通過点の近傍たとえば第2図のa点に来たことが検知され、警報発生器26により警報が出る」ようになっているのであるから、このものは、複数の通過点を予め入力設定しておき、車両の現在の場所から目的としている通過点までの距離を演算し、その演算距離により、目的としている通過点の近傍の所定の点に来たことを検知して、警報発生器により警報を出すものであると言える。
そして、この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である。
また、目的としている通過点とその目的としてる通過点の近傍の所定の点との距離は、所定値であり、この目的としている通過点は、本願発明の所定位置に相当するものである。
(b) そうすると、結局、引用例2には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を運転者に報知することが示されていると言うことができる。
(c) なお、請求人(原告)は、特許異議答弁書において、「(引用例2)には、案内情報を表示することについては、何等記載されていません。」(4頁9~11行)と主張しているけれども、引用例2には、上述の通り、「車両の走行距離を検出する距離検出手段と、車両進行方向の方位を検出する方位検出手段と、複数の通過点の座標を順次入力する入力手段と、この入力手段により入力された位置関係を各々記憶する記憶手段と、通過点の位置あるいは方向を表示する表示手段と、車両走行中上記両検出手段の出力をもとに任意の場所からあらかじめ設定してある任意の通過点の位置あるいは方向を上記表示手段でもって表示させる手段を設けたこと」が記載されており、この通過点の位置あるいは方向は、車両の走行案内情報であるから、上記請求人の引用例2に関する上記主張は、採用することができない。
〈2〉(a) また、引用例3の車の走行案内装置は、上述の通り、「区切られた区間の距離情報を記憶する記憶装置と、上記区間の車の走行距離を計測する手段と、この手段による計測走行距離を上記区間距離から減算し上記区間の走行残余距離を検出する手段と、この手段による残余距離情報が特定される値になった時に検知警報信号を発生する手段とを具備し」ているのであるから、このものは区切られた区間の車の計測走行距離を区間距離から減算し区間の走行残余距離を検出して、この残余距離情報が特定される値になった時に、検知警報信号を発生するものであると言える。
そして、引用例3の「主記憶装置11には分割された区間毎の距離情報、さらには交叉点等の折曲方向指示情報等の案内情報が、番地に区切られて順次道程順に記憶される」の記載からみて、上記の区切られた区間は、道程上の特定の所定位置から次の所定位置迄の区間を意味し、区間の走行残余距離は、車両の現在位置と次の所定位置との距離を意味すると解される。
また、残余距離情報が特定される値になった時とは、車両の現在位置と次の所定位置との距離が所定値より小さくなった時のことと解される。
そうすると、引用例3には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出し該距離が所定値より小さくなったことを条件として、運転者に検知警報信号を発生するものが示されていると言うことができる。
(b) ところで、引用例3には、検知警報信号を発生することに関して、上述の通り、「主記憶装置11からの読み出し情報もアンド回路15を介して記憶装置13に結合しこの記憶装置13の記憶情報は表示部16で表示するようにする」こと、「読み出し走行の場合には記憶装置13に対して実走情報が減算要素として結合され、記憶装置13には常に区間の区切り部である目標地点までの残余距離が計数記憶され、表示部16で表示されるものである。したがって、表示部16は常に目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようになるものである。」こと、及び、「残余距離2kmとなると、検出回路33から先にゲートの開かれたアンド回路34aに検出信号が与えられ、出力装置32で例えば表示の点滅等による警報を発するようになる」ことが記載されている。
この「表示部16で表示される目標地点までの距離」は、目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようにするものであるから、案内情報の一つである。
(c) そうすると、これらの記載から、引用例3には、表示部において案内情報の表示を点滅させることにより、警報を発生することも記載されていると言うことができる。
そして、この表示の点滅は、表示を強調報知し、その表示内容を運転者に教示するものである。
また、上述の通り、本願発明の通告装置には、音声メッセージの外に視覚に訴えるメッセージを画面に表示させるものも含まれると解されるのであるから、引用例3に記載の表示部は本願発明の通告装置に相当するものと言える。
従って、結局、引用例3には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができる。
(d) なお、請求人(原告)は、特許異議答弁書において、「(引用例3)には、目的地までの残余距離を検出し、表示の点滅等で警報を発するものであり、所定の距離に近づいたら案内情報を表示するものはありません。また、(引用例3)には、記憶装置に距離情報および折曲方向指示情報等の案内情報を記憶させるとともに、記憶情報を表示部で表示することが記載されています。しかしながら、これらの案内情報をどのようなタイミングでどのように表示するかは全く開示されていません。」(5頁11行~6頁1行)、「(引用例2)および(引用例3)には所定の条件で警報を発することは開示されていますが、所定の条件で案内情報等を教示することについては何ら記載されていません。」(6頁9~12行)と主張しているけれども、上述の通り、引用例3には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができるのであるから、上記請求人の引用例3に関する上記主張も、採用することができない。
〈3〉 そうすると、引用例2には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を運転者に報知することが示されており、また、引用例3には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言えるから、引用例1に記載されているものの通告装置に、本願発明のように、車両の現在位置と所定位置との距離を算出し該距離が所定値より小さくなったことを条件として案内情報を報知して走行経路を運転者に教示することを行わせるようなことは、引用例2、或いは、引用例3に記載のものに基づいて、当業者が、格別の困難もなく、容易に想到できるものと認められる。
(5) 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1、引用例2、及び、引用例3にそれぞれ記載のものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。
同(4)中、〈1〉(a)のうち、「この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である」との点は争い、その余は認める。(b)は争う。(c)は認める。
〈2〉(a) は認める。(b)のうち、「この「表示部16で表示される目標地点までの距離」は、目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようにするものであるから、案内情報の一つである」との点は争い、その余は認める。(c)のうち、「本願発明の通告装置には、音声メッセージの外に視覚に訴えるメッセージを画面に表示させるものも含まれると解されるのであるから、引用例3に記載の表示部は本願発明の通告装置に相当するものと言える」ことは認め、その余は争う。(d)のうち、「引用例3には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができるのであるから、上記請求人の引用例3に関する上記主張も、採用することができない」との点は争い、その余は認める。
〈3〉 は争う。
同(5)は争う。
審決は、引用例2及び引用例3に記載されたものの技術内容を誤認し、そのため本願発明と引用例1に記載されたものとの相違点に対する判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(取消事由)
(1) 引用例2に記載されたものの誤認について
審決は、引用例2について、「この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である。」(甲第1号証15頁9行ないし12行)、「(車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として)通告装置により案内情報を運転者に報知することが示されている」(同15頁17行ないし16頁1行)と認定するが、誤りである。
本願発明にいう「案内情報」は、特許請求の範囲に「走行経路に従って走行中に、・・・前記通告装置により案内情報を報知して走行経路を運転者に教示する」と記載されているように、それを報知することで走行経路を運転者に教示できるものでなければならない。
しかるに、引用例2において、目的としている通過点の近傍の所定の点に来たときに発する「警報」は、走行経路を運転者に教示するものではないことはもちろん、「車両が通過点の近傍の所定の点に来た」という内容それ自体も報知するものではない。「車両が通過点の近傍の所定の点に来た」ということは、警報を受けた運転者が認識判断することである。
(2) 引用例3に記載されたものの誤認について
〈1〉 審決は、引用例3について、「この「表示部16で表示される目標地点までの距離」は、目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようにするものであるから、案内情報の一つである。」(甲第1号証19頁4行ないし7行)、「(車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として)通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができる。」(同19頁19行ないし20頁3行)と認定するが、誤りである。
本願発明の「案内情報」は、前記(1)で述べたとおり、それを報知することで走行経路を運転者に教示できるものでなければならない。
したがって、引用例3の「目標地点までの距離」をもって本願発明の「案内情報」であるとする審決の認定は誤りである。
〈2〉(a) また、審決は、引用例3について、「車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として」(甲第1号証19頁19行ないし20頁1行)案内情報を報知すると認定するが、誤りである。
引用例3においては、「目標地点までの距離」は、表示部16において常時表示されているものである。
(b) 仮に、審決が、引用例3には、「表示部において案内情報の表示を点滅させることにより、警報を発することが記載されていると言うことができる。そして、この表示の点滅は、表示を強調報知し、その表示内容を運転者に教示するものである。」(甲第1号証19頁9行ないし13行)ことをもって、「車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として」案内情報を運転者に報知し表示内容を運転者に教示することを示している旨認定するものだとしても、目標地点までの距離を教示するのは、警報ではなく常時表示されている距離表示そのものである。この場合の強調表示(警報)は、運転者に対して表示を見るように注意を促すだけのものである。
(3) 引用例1に記載のものに引用例2あるいは同3に記載のものを適用することの容易性について
審決は、引用例1記載されているものの通告装置に、本願発明のように、車両の現在位置と所定位置との距離を算出し該距離が所定値より小さくなったことを条件として案内情報を報知して走行経路を運転者に教示することを行わせるようなことは、引用例2あるいは引用例3に記載のものに基づいて、当業者が容易に想到できる旨(甲第1号証21頁6行ないし22頁2行)判断するが、誤りである。
〈1〉 審決が本願発明の「案内情報」(甲第1号証15頁20行、20頁2行)に当たると認定する引用例2の通過点の近傍の所定の点に来たことを検知して発生される「警報」や引用例3の「目標地点までの距離」は、いずれも本願発明の「所定位置にかかる案内情報」ではない。
このような引用例2又は引用例3に記載のものを引用例1に記載のものに適用したところで、運転者に対して「所定位置にかかる案内情報」を見なさいということを警報(強調表示)するだけのことであって、本願発明の「案内情報を報知して走行経路を教示する」という構成は導かれないのである。つまり、車両の現在位置にかかる情報と所定位置にかかる案内情報とは併存するだけのことであり、引用例1ないし3には、本願発明のような、所定位置にかかる案内情報を車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として報知して運転者に走行経路を教示するという技術思想は何ら存していないものである。
〈2〉 被告は、引用例1に記載されたものは「その報知タイミングの決め方については特に記載していないものの、予め設定された走行経路に従って走行中に、交差点の手前で、右折、左折、直進の案内情報を報知するものである」と解するのが相当である旨主張する。
しかしながら、引用例1に記載されたものは、右折、左折、直進の指示を所定位置までの残存距離がある距離になったときに写し出す」という記載又はそれを示唆する記載がない以上、報知のタイミングを決めておらず、右折、左折、直進の案内情報を常時写し出していると解するのが自然である。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 引用例2について
〈1〉 審決は、引用例2に記載されたものの「車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報」が本願発明の要旨にいう「所定位置にかかる案内情報」と同じ内容の案内情報であると認定しているものではない。
しかし、引用例2に記載されたものは、「複数の通過点を予め入力設定しておき、車両の現在の場所から目的としている通過点までの距離を演算し、その演算距離により、目的としている通過点の近傍の所定の点に来たことを検知して、警報発生器により警報を出すもの」(甲第1号証15頁3行ないし8行)である。そうすると、この警報発生器より出される警報により、運転者は、目的としている通過点の近傍の所定の点に来たことを知り得ることになるのであるから、この警報は、車両が目的としている通過点の近傍の所定の点に来たという意味内容を報知するものであり、何の意味内容も示さないものではない。そして、「車両が通過点の近傍の所定の点に来たこと」は、通過点、すなわち所定位置に関係するものであるから、所定位置に関係する案内情報の一つである。
〈2〉 したがって、審決が、引用例2に記載のものについて、「この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である。」等と認定した点に誤りはない。
(2) 引用例3について
〈1〉 審決は、引用例3に記載されたものの「目標地点までの距離」が本願発明の要旨にいう「所定位置にかかる案内情報」と同じ内容の案内情報であると認定しているものではない。
しかし、目標地点までの距離は、目標地点、すなわち所定位置に関係するものであるから、所定位置に関係する案内情報の一つである。
〈2〉 引用例3に記載されたものは、目標地点までの距離を常時表示しているものではない。
すなわち、審決は、「(引用例3)には、表示部において案内情報の表示を点滅させることにより、警報を発生することも記載されていると言うことができる。そして、この表示の点滅は、表示を強調報知し、その表示内容を運転者に教示するものである。」ことを理由に、「従って、結局、(引用例3)には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができる。」としているものである。そして、「その表示内容」が、表示部において点滅表示されている案内情報、すなわち表示部において点滅表示されている「目標地点までの距離」を意味し、また、「案内情報を報知し表示内容を運転者に教示する」ことが、点滅表示されている「目標地点までの距離」を報知し運転者に教示することを意味することは、審決における上記記載からみて明らかであり、この表示部において点滅表示される「目標地点までの距離」は、常時報知されるものではなく、車両の現在位置と所定距離との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として報知されるものである。
〈3〉 したがって、審決が、引用例3に記載のものについて、「車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができる。」と認定した点に誤りはない。
(3) 適用の容易性について
〈1〉 引用例1(甲第2号証)には、「画面表示装置に道路網、現在走行位置、目的地点、目的地に達する走行ルートが写し出される他、交差点の手前より、右折、左折、直進、の指示が写し出される。」(2頁左上欄5行ないし8行)ことが記載されており、走行中、常時継続して表示されている旨の記載は見当たらない。第6図(別紙図面参照)は、画面表示例であって、そこには、右折、左折、直進の指示の画面表示例として、「右折迄1.5㎞」と記載されている。そうすると、引用例1に記載されたものは、その報知のタイミングの決め方については特に記載していないものの、予め設定された走行経路に従って走行中に、交差点の手前で、右折、左折、直進の案内情報を報知するものであると解するのが相当である。
〈2〉 前述のとおり、引用例2に記載の「警報」や引用例3の「目標地点までの距離」は、所定位置に関係する案内情報の一つである以上、引用例1に記載されたものの通告装置の案内情報報知タイミングを本願発明のようにすることは、引用例2に記載されたものの警報のタイミング、又は、引用例3に記載されたものの「目標地点までの距離」の点滅表示のタイミングに基づいて、当業者が容易に想到できるものである。
〈3〉 したがって、本願発明は、引用例1ないし3に記載されたものに基づいて、当業者が容易に想到できるとした審決の判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)及び(3)(一致点及び相違点の認定)は、当事者間に争いがない。
2 そこで、相違点に対する判断の誤りをいう原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 引用例2について
〈1〉 審決の理由の要点(4)〈1〉の事実のうち、(a)中の「この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である」との点を除く事実及び(c)の事実は、当事者間に争いがない。
〈2〉 原告は、審決が引用例2に記載のものについて、「この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である。」、「(車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として)通告装置により案内情報を運転者に報知することが示されている」と認定した点は誤りであると主張する。
しかしながら、本願発明における「所定位置にかかる案内情報」がそれを報知することで走行経路を運転者に教示できるものであるとしても、審決は、引用例2に記載のものの「警報」は「車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であ」ると認定しているにすぎず、本願発明における「所定位置にかかる案内情報」であると認定しているものではない。
そして、前記1に説示の事実(審決の理由の要点(2)〈2〉)によれば、引用例2に記載されたものにおいては、「通過点の位置あるいは方向を表示する表示手段」があり、「通過点の近傍・・・に来たことが検知され、警報発生器26により警報が出る」と、警報を受けた運転者は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たと認識判断するものであると認められる。
審決の「この警報は、車両が通過点の近傍の所定の点に来たことを知らせる一つの案内情報であり、警報装置は、この一つの案内情報を運転者に報知する通告装置である。」、「(車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として)通告装置により案内情報を運転者に報知することが示されている」との認定も、上記に説示した内容を認定するに留まるものと認められ、ただ、通過点に関係し運転に役立つ関係にある情報という意味で、「一つの案内情報」等との表現をしているものと認められる。
〈3〉 したがって、審決には引用例2の記載内容の認定に誤りがある旨の原告の主張は、採用できない。
(2) 引用例3について
〈1〉 審決の理由の要点(4)〈2〉のうち、(a)の事実、(b)のうち、「この「表示部16で表示される目標地点までの距離」は、目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようにするものであるから、案内情報の一つである」との点を除く事実、(c)のうち、「本願発明の通告装置には、音声メッセージの外に視覚に訴えるメッセージを画面に表示させるものも含まれると解されるのであるから、引用例3に記載の表示部は本願発明の通告装置に相当するものと言える」との事実、(d)のうち、「引用例3には、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができるのであるから、上記請求人の引用例3に関する上記主張も、採用することができない」との点を除く事実は、当事者間に争いがない。
〈2〉 原告は、審決が引用例3に記載のものについて、「この「表示部16で表示される目標地点までの距離」は、目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようにするものであるから、案内情報の一つである。」、「(車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として)通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができる。」と認定した点は誤りであると主張する。
しかしながら、本願発明における「所定位置にかかる案内情報」がそれを報知することで走行経路を運転者に教示できるものであるとしても、審決は、引用例3に記載のものの「表示部16で表示される目標地点までの距離」は、「目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようにするものであるから、案内情報の一つである。」と認定しているにすぎず、本願発明における「所定位置にかかる案内情報」であると認定しているものではない。
そして、前記〈1〉に説示のとおり、引用例3に記載のものにおいては、「表示部16は常に目標地点までの距離を指示し、目標地点が明確に判断できるようになるものであ」り、「残余距離2㎞になると、検出回路33から先にゲートの開かれたアンド回路34aに検出信号が与えられ、出力装置32で例えば表示の点滅等による警報を発するようになる」ものであるところ、審決の「(車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として)通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示することが示されていると言うことができる。」との認定も、この趣旨を超えるものとは認められず、ただ、通過点に関係し運転に役立つ関係にある情報という意味で、「案内情報の一つ」等との表現をしているものと認められる
〈3〉 さらに、原告は、引用例3においては、「目標地点までの距離」は、表示部16において常時表示されているものであると主張するが、この点に理由がないことは、前記1に説示のとおり、審決が「そうすると、これらの記載から、引用例3には、表示部において案内情報の表示を点滅させることにより、警報を発生することも記載されていると言うことができる。」(審決の理由の要点(4)〈2〉(c))と認定していることから明らかである。
原告は、また、引用例3記載のものは目標地点までの距離を教示するのは警報ではなく常時表示されている距離表示そのものであり、強調表示は運転者に対して表示を見るように注意を促すだけである旨主張する。しかしながら、上記〈2〉に説示のとおり、引用例3に記載のものは、引用例2に記載のものとは異なり、目標地点までの距離を表示する表示部自体が点滅等するものであるから、これを「視覚に訴えるメッセージを画面に表示させるもの」(甲第1号証19頁15行、16行)ととらえて「通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示する」と認定することに誤りがあると解することはできない。
〈4〉 したがって、審決には引用例3の記載内容の認定に誤りがある旨の原告の主張は、採用できない。
(3) 適用の容易性について
〈1〉 前記1(審決の理由の要点(2)〈1〉)に説示のとおり、引用例1に記載のものにおいては、「画面の1部分に右折、左折、直進の指示」が写し出されるものであるが、その報知のタイミングについては引用例1(甲第2号証)中に記載がない。
被告は、引用例1に記載されたものは、その報知のタイミングの決め方については特に記載していないものの、予め設定された走行経路に従って走行中に、交差点の手前で、右折、左折、直進の案内情報を報知するものであると解するのが相当であり、右折、左折、直進の指示を常時写し出すものではない旨主張する。
しかしながら、引用例1(甲第2号証)に、「交差点の手前より、右折、左折、直進、の指示が写し出される。」(甲第2号証2頁左上欄7行、8行)ことが記載されていること、及び、画面表示例である第6図(別紙図面参照)に、「右折迄1.5㎞」と記載されている等の点も、それだけでは、常時次の交差点までの距離及び当該交差点での運転操作を指示し、当該交差点を過ぎると、更に次の交差点までの距離及びそこでの運転操作を指示していると解する余地があり、右折、左折、直進の指示が常時写し出されているものではないと解するには足りない。
〈2〉 しかし、前記1(審決の理由の要点(2)〈1〉)に説示のとおり、引用例1には、「なお、図面には特に記載していないが、画面表示装置にはスピーカーが内蔵され、音、または音声によっても、同様に、右折、左折、直進の指示や現在位置がドライバーに知らされる」と記載されており、前記1(審決の理由の要点(3))に説示のとおり、引用例1の「右折、左折、直進の指示」、「画面の一部とスピーカー」が本願発明の「走行経路途中の所定位置にかかる案内情報」、「案内情報を報知する通告装置」にそれぞれ相当し、両者が、「・・・上記信号処理装置の出力側に前記案内情報を報知する通告装置を備え、予め設定された走行経路に従って走行中に、前記通告装置により案内情報を報知して走行経路を運転者に教示する・・・点において一致」するものである。そうすると、引用例1に記載のもののうち、少なくとも音又は音声で報知しようとするときは、交差点の手前のどの地点又はどの時点で報知するかについて考えることは自然であるので、引用例1に記載の案内情報に関して音声によるその報知のタイミングを考えることは、当業者にとって自然なことと認められる。
また、引用例1に記載のもののうち、画面の一部に交差点の手前より、右折、左折、直進、の指示を写し出すものについても、前記(2)に説示のとおり、引用例3には、目標地点までの距離を表示する表示部自体が点滅等することによって、単に警報を発するのではなく、「通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示する」構成が示されているところ、引用例3の距離の情報と引用例1の案内情報とは、運転に役立つ情報という点で共通であるから、引用例1に記載のもののうち画面の一部に右折等の指示を表示するものについても、表示部自体の点滅等による報知を考えること、更にその報知のタイミングを考えることは、当業者にとって自然なことと認められる。
そして、引用例1に記載のものの右折、左折、直進の指示のように所定位置における運転操作を指示する情報であっても、引用例2に記載のものの警報のように運転者に表示手段を見ることを指示する情報であっても、また、引用例3のような目標地点までの距離の情報であっても、車両の走行に役立つ情報であり、運転者に適切な時期に与えられる必要があることに変わりはないから、引用例1に記載されたものの通告装置に、本願発明のように、車両の現在位置と所定位置との距離を算出して該距離が所定値より小さくなったことを条件として案内情報を報知して走行経路を運転者に教示することを行わせるようなことは、引用例2又は引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到できることと認められる。
〈3〉 原告は、このような引用例2又は引用例3に記載されたものを引用例1に記載のものに適用したとしても、運転者に対して「所定位置にかかる案内情報」を見なさいということを警報(強調表示)するだけのことであって、本願発明の「案内情報を報知して走行経路を教示する」という構成は導かれない旨主張する。
しかしながら、前記〈2〉に説示のとおり、引用例1には「画面表示装置にはスピーカーが内蔵され、音、または音声によっても、同様に、右折、左折、直進の指示や現在位置がドライバーに知らされる」と記載されており、原告のいう「所定位置にかかる情報」を報知して走行経路を教示する点は、引用例1に記載のものの構成中に含まれているものであるから、原告の上記主張は採用できない。また、前記〈2〉に説示のとおり、引用例3に記載のものは、目標地点までの距離を表示する表示部自体が点滅等し、「通告装置により案内情報を報知し表示内容を運転者に教示する」ものであり、単に案内情報を見るよう指示するものではないから、原告の上記主張は、この点からも採用できない。
(4) 結論
そうすると、審決の相違点に対する判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
3 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面
〈省略〉